橋を渡り、急いでエデン埠頭通りのるバス停に向かった。今朝、アンナさんに「9時過ぎに帰る」と言った事を思い出した。15分程待つと緑色のダブルデッカーが来た。3割ぐらいの乗客がすでに乗っている。ダブリン空港迄の道路は、けっこうバスやタクシ−がある。バスは9時半過ぎスウオ−ドの町に着いた。小さな田舎の街なのに、バ−やパブ、コンビニだけは営業している。コンビニでシャンプ−や飲み物を買ってB&B迄歩いて帰る事にした。ここから「2つ上のバス停で15分ぐらい」の筈だ。先ずはアンナさんに電話をかけることにした。近くに電話機が見あたらない。大阪のロ−ソンなら前に緑色の公衆電話があるのだが・・・。この国は公衆電話機の数が少ない。もちろん携帯電話を掛けている人を見たことがない。そんな「不便」な街だが、人迷惑な「携帯の呼び出し音」がないこの国がとても好きだ。店は、外見は古いレンガ造りだが店内は明るく綺麗だ。若い男のレジ係りが1人、横の若い娘と親しそうに話をしている。彼女はお客でなく、彼の友達のようで「店が終わればパブに行こう!」と話しているのであろうか。シャンプ−と飲み物を買って店を出た。
通りはショウウインドウの光で明るい。歩道は等間隔に鉄製の街路灯が建っている。三叉路を左に曲がり上って行った。1km程坂を上って行くとアンナさんの家があるはずだ。前方右側には、「例の」薄暗い中世の廃墟の城壁がある。入り口で、鎧に身を包んだ騎士の幽霊が待っているかもしれない。想像すると恐ろしい。立ち止まり、興味半分に暗い廃虚の方を見た。昼間はグリ−ンの芝生が綺麗だ。しかし、夜は黒い大海のように見える。酔いはすっかり覚めていた。黒い崩れた城壁のあちこちから、真黒い目が僕を見ている。夜の海から得体のしれない怪物が、こちらに向かって来るようだ。恐ろしくて早足で通り過ぎた。これほどの恐怖感は経験したことがない。昨晩はここをタクシ−で通ったので気付かなかった。いくら歩いても、人家が無く街灯が暗い道を照らしている。昼間の面影もなく、違った道に迷い込んだような錯覚に陥り始めた。時折車が通り過ぎて行く。帰り道の自信は持っていたが昼と夜とでは全く違う情景だ。前方に住宅らしき明かりが見えてきた。 |